『田園の詩』NO.88 「印遊び」 (1998.10.13)


 もう10年以上も前になりますが、田舎にUターンして本業の筆工房≪楽々堂≫の看板を
掲げると同時に、印作り教室≪印華堂≫という看板も出しました。

 印(落款印)に興味を持ち、自分で石を彫って作ってみたら、これがなかなか面白くて、
いつの間にかハマってしまいました。

 誰にでもできることなので(ほとんどの人が難しいと思われているようですが)、こんな
田舎でも、やりたい方がいたら一緒に楽しもうと思ったからです。

 当初、知人達の中に興味を示す人がいて、10名位に手ほどきをして用具も一通り揃
えて渡しました。その後、あまり宣伝もしなかったので、数年間、≪印華堂≫は開店休業
の状態になってしまいました。


       
     出来上がったら、差し上げる前に、資料として色紙や印譜帖に押印して保存します。
      右の方が最近のものです。


 ところが、最近、俄かに忙しくなってきたのです。印作り(篆刻ともいわれています)自体
が都会でブームになっていると聞いています。小さな書店でも関係する本をよく見かけるよう
になりました。

 しかし、我が≪印華堂≫が賑わいだしたのは、都会から篆刻ブームがやって来たからで
はありません。

 実は、田舎にやってきたのは絵手紙ブームなのです。隣町(日出町)の公民館に開講され
た絵手紙教室の先生と生徒さん達が、まず筆を求めに≪楽々堂≫にきました。その時、
印作りのことが話題になったのです。

 ハガキに季節の花や果実などの絵を描いて、さりげない言葉を添えて便りにする際に、
押印は欠かせないといいます。

 「自分の作品には、自分で作った印を押す。これがここのモットーですから、皆さんも彫って
みて下さい。簡単ですヨ」と私が目の前で彫ってみせたので、皆その気になったのはいうまで
もありません。

 簡単といっても、年配の方もおりますし、刃物も使うので、印を作ること自体を楽しむところ
までは、まだまだですが、一日かけて自分で作った≪雅印≫を絵手紙に押して楽しむことは
存分にしているようです。

 そんな絵手紙が当家にも舞い込みます。うれしい余韻に浸っています。
                               (住職・筆工)

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